思考のP2P
Twitter社会論 ~新たなリアルタイム・ウェブの潮流 (新書y)
Twitter社会論 ~新たなリアルタイム・ウェブの潮流 (新書y) 著者:津田 大介 | |
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今年度のゼミ欠席代替措置書評を昨日MLに流したが、折角なのでこっちにも載せてみる。
この分量はブログとしてはテロだなあと思いつつ。
選書は布教目的が10割なんですが。
そもそも今年度は途中から先生が出欠をとるのを諦めてたので別に書かなくてよいという説もあるが、布教したかったのでむしゃくしゃしてやった。
反省はしていない。
要約
ツイッターとは、「いまなにしてる?(What are you doing?)」(現在は「いまどうしてる?(What’s happening? )」)との質問に、140字以内で答えて「つぶやき(Tweet)」を投稿するサービスである。「ブログのように、記事タイトルを付けたり、カテゴリーの設定をするなど、体裁を整える作業なしで気軽に利用できるブログという意味で、一般的なサービスの名称として「マイクロブログ」あるいは「ミニブログ」と呼ばれている」(25ページ)。ツイッターの特徴は、①リアルタイム性、②伝播力が強い、③オープン性、④ゆるい空気感、⑤属人性が強い、⑥自由度が高い、である。
コミュニケーションの原始的な醍醐味は、自分の言葉に誰かが反応してくれることである。「ツイッターはリアルタイム性が高く、気軽に他人の発言にツッコミを入れやすい構造になっているため、何かをつぶやいたあと、即座に反応が返ってくる」(50ページ)。気軽かつリアルタイムにコミュニケーションできることが、ツイッターの面白さである。「特に筆者の興味を引いたのが、何かの現象や出来事、ニュースを目の前にしたときに、そこから派生して感じたことや普段から考えていることをメモ的につぶやくというものだ」(55ページ)。自分の思考を曖昧なまま「垂れ流す」ことで、当初は想定していなかった様々な広がりが起こる。「ツイッターはもっと自由に使っていいサービス」なのであり、筆者が「tsudaる」と呼ばれるインターネット中継(ツイッターを使ってシンポジウムなどのイベントを中継すること)をはじめたのも、この理解がきっかけである。
ツイッターは、マスメディアやジャーナリズムのあり方にも大きな影響を与えている。メディアやジャーナリズムの機能は、事件や災害などの情報を素早く伝える「伝達機能」、批判的に権力を監視する「監視機能」、そして、社会問題の論点や解決策を提示し、議論を構築する「構築機能(アジェンダセッティング)」である。ツイッターはこれらの機能を発揮することができる。しかし、「ツイッターは決して既存メディアやジャーナリズムを駆逐するものではない」(105ページ)。既存メディアを代替するのではなく、補完するのである。今後のジャーナリズムは、情報爆発の中でどう情報の質を担保するかが重要になるだろう。
政治家の利用も盛んになってきている。物理的な制約上、発言の真意が伝わりにくいマスメディアの報道に対するカウンター・メディアとして、ブログがあるが、伝播力とリアルタイム性が高いツイッターはこのカウンター機能が強い。また、党首討論や議会の様子を実況中継するという使い方もある。もっとも、ツイッターで政治が劇的に変わるということはない。しかし、有権者の政治参加意識が高まれば、それだけで有益なのではないか。
一般企業がマーケティング目的で利用する試みも増えている。成功事例は枚挙にいとまがない。しかし、成功事例を参考にとりあえず導入しても、上手くいくわけではない。どれだけ企業アカウントの活用が進んでも、ツイッターの主役は「個人」である。「個人」としての社員とユーザーのコミュニケーションが行われることで、「働いている人の閉塞感が強く、流動性も低い昔ながらの企業が、オープンで自由な方向に変わっていく―そんな淡い期待を持っている」(158ページ)。
感想・私見
私が本書を読んだ時は今ほどの(といってもわずか3か月前の話であるが)ヘビーユーザーではなかったが、改めて読み返してみるとツイッターの特徴が網羅されていることに感心する。筆者・津田大介氏(ツイッターアカウント:@tsuda)は、日本語版のサービスが開始されていない2007年4月からツイッターの使用を始めている。その長いツイッター経験から培ったノウハウを記したハウツー本としても興味深い。しかし、やはり現実社会とツイッターとのかかわり方の考察が、本書の核である。ツイッターの特徴を的確にとらえ、鋭く考察されている。無闇な礼賛にもなっていない。本書出版(09年11月)後もツイッター界隈の動きは速く、例えば鳩山由紀夫首相(@hatoyamayukio)は10年1月1日にアカウントを取得し、注目を浴びた。週刊ダイヤモンドは10年1月23日号でツイッターを特集しており、その他の雑誌やテレビ番組も今年に入ってから取り上げることが多くなったように思う。そのために、本書を今から読めば取り上げるべきことが取り上げられていないと感じることもあるかもしれないが、根幹部分は色あせていない。
以下、本書でも触れられている、政治家のツイッター利用について私見を述べてみたい。
政治家がツイッターを利用することで、どのような社会的メリットがあるか。筆者は、「これまであまり政治に関心のなかった有権者の政治参加意識が少しでも高まるのなら、彼らの活動はそれだけで有益なものと言えるのではないか」(124ページ)としている。私も同感であるが、別の見方をすれば、その程度である。筆者も言うように、「ツイッターが「政治を劇的に変える」などということはあり得ない」(同)。そもそも、気軽に発言できることが特徴であるツイッターと、失言が他党やマスコミにより常に狙われるために慎重な発言が要求される政治家とは親和性が低い。政治家にとってのリスクが大きいのである。ツイッターを通して政策を1つ訴えるにしても、少しでも党の方針とずれたことをツイートすれば失言となり得る。そのためか、鳩山首相はツイートする際に秘書官付を介している。したがって、政治家がツイッターを使って積極的に発信し、世論を喚起する、ということは考えにくい。逢坂誠二衆議院議員のように、党首討論の様子を、インサイダーの視点から実況中継する、という使い方はある。しかし、それは議員がやるべきことなのか、という疑問は付きまとう。むしろ、上杉隆氏(@uesugitakashi)や神保哲夫氏(@tjimbo)が、記者会見の様子を文字や映像で中継しているように、一般人が立ち入ることのできない政治の現場の生の様子をアウトサイダーが伝えるという使い方の方が、自然である。また、社会的に有益でもある。
しかし、政治家のツイッター利用に対する私の立場は賛成である。「やるべきだ」とまでは思わないが、「やった方がよい」とは思う。社会的なデメリットが考えられないからである。だから、リスクを充分に承知したうえであればどんどん利用してほしいと思う。しかし、リスクがヘッジできなければ無用の混乱を招くだけである。また、リスクを恐れすぎるとつまらない。このバランス感覚が求められるため、最終的にツイッターを利用するかどうかは個々の政治家の判断に委ねざるを得ない。その意味で、ツイッターユーザーから反感を買った、自民党総裁・谷垣氏の「つぶやかない」宣言[i]は妥当である。しかし、情報を収集・発信するツールとしてツイッターは優れている。したがってこれを使いこなす能力は、政治家としても有用であるといえる。
とここまで政治家のレベルで話を進めてきたが、個人のレベルではなおさら「やった方がよい」と勧めたい。政治家や企業に比べたら一個人が背負うリスクなど微々たるものなのだから、何かツイッターとかいうのが面白いらしいぐらいの気持ちで始めたらいいと思う。その上でビジネスにイベントに就職活動に役立てる方法を考えればいい。ツイッターは本質的に何をやるのも自由なのだから。それで「社会が変わる」とか、「人生が変わる」などとは思わない。ただ、人生のささやかなスパイスぐらいにはなるかもしれない。例えやってみた結果、面白くなくとも、「ツイッターはバカと暇人のもの」と考えてやらないよりは得るものがあると思う。
[i] asahi.com 「「私はつぶやかない」 自民・谷垣氏、反ツイッター宣言」2010年1月7日、 http://www.asahi.com/politics/update/0107/TKY201001070363.html
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