情報が無料になりたがる時代の政治・経済 【書評】『REMIX』
REMIX ハイブリッド経済で栄える文化と商業のあり方
REMIX ハイブリッド経済で栄える文化と商業のあり方 著者:ローレンス・レッシグ | |
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最近人気のフリーではあるが、批判も絶えないわけで、先日はこんな記事を見つけた。
主な批判は2点で、1点目は筆者がフリーの4分類の1つに入れている広告モデルで稼ぐことができるのは一部の勝ち組企業だけというもの。
2点目は、「デジタル化されたコンテンツは無料になる」という考え方は間違いで、実際には当然情報やコンテンツの制作にコストがかかっている、というもの。
1点目はまあ割とその通りなのだけれど、例えば無料で音楽配信して広告をつける、みたいに、違法ダウンロードされるくらいなら、と開き直って、あるいは譲歩して小金を稼ぐ戦略としては有効ではないかと思う。
2点目については、そもそも筆者は「デジタル化されたコンテンツは無料になる」などとは考えていない。
岸氏自身が引用しているとおり、“content wants to be free”、つまり「無料になる」のではなく、「無料になりたがる」のである。
情報自身が無料になろうとするのだから、情報やコンテンツ自体にコストがかかっていようが関係ない。
多くの『フリー』批判は、タイトル自身に向けられている気がするのだが、筆者の主張は、商品を無料にすることで云々というところにあるのではなく、無料になろうとする情報をどう操って収益を上げるかが重要だ、というところにあると僕は読んだ。
だから岸氏の問題意識は立派だけど、『フリー』批判としてはずれてしまう。
そもそも前提が共有できていないのだから。
で、情報が無料(あるいは自由)になろうとすることについて、『フリー』が経済的な視点から述べたものだとすれば、ローレンス・レッシグ『REMIX』は政治的な視点から述べたものであると位置づけることができよう。
筆者レッシグによれば、情報がフリーになろうとする社会においては、お金に価値を置く「商業経済」が、お金以外のものに価値を置く「共有経済」から収益を生み出す「ハイブリッド経済」が重要である。
そして、それを可能にするために政府がすべき法改正の具体案を述べている。
(ちなみに、僕はレッシグの他の著作は読んだことが無いのだけれど、今までのまとめのような感じらしい。)
『フリー』でも「非貨幣経済」という呼び方で、金銭以外の価値の重要性が述べられている。
情報がフリーになろうとする時代においては、金銭以外の価値から金銭的な価値を生み出す戦略が重要である、というのがこの2冊の共通点だろうか。
『フリー』→『ネット帝国主義と日本の敗北』→『REMIX』と読むと、それぞれ視点は違うものの、情報のフリーに関する主張とそれに対する批判、そしてそれらの論争になっている問題に対する処方箋、と読むことができるかもしれない。
ところで岸氏はエイベックス・グループ・ホールディングスの取締役らしい。
ああ、なるほど。
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