労働市場におけるドナドナ 【書評】『「若者はかわいそう」論のウソ』
「若者はかわいそう」論のウソ (扶桑社新書)
「若者はかわいそう」論のウソ (扶桑社新書) 著者:海老原 嗣生 | |
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北田先生がおっしゃっていたのは、
「世間の注目を浴びるのは簡単だ。常識だと思われることをデータで反証すればいい」
だったか。
この本もそんな感覚で、まあ威勢のいいこと言ってるだけだろうと思っていたら、なかなか興味深いことがいろいろと書かれている。
例えば、3年以内離職率は昔からそんなに増えていないだとか、新卒で就職に失敗してもリベンジは十分に可能だとか、就職氷河期とは言われているけれど中小企業は人手不足だとかを、データを以て立証している。
このあたりまでは菅原琢『世論の曲解』みたいな感じ。
で、ここからが本書の白眉なんだろうけど、筆者は次のように主張する。
ここ4~5年、「若者かわいそう」という言説が、この世の春を謳歌している裏側で、日本を取り巻く状況には、もっと大きな地殻変動が長期間にわたって起きている。(205ページ)
で、その地殻変動の内容とそこから起きている・これから起きる問題が述べられているのだけれど、それらに対して筆者が示す処方箋が4つ。
①外国人就労者受け入れ
②「期間」ではなく「地域」「職務」で契約する「新型正社員」の導入
③大学で職業教育も
④ハローワークによる公的派遣
①と③に関しては割と納得できるのだけれど、②と④に関しては異議あり。
まず②について。
筆者は「新型正社員」導入のメリットについて、総合職の特権を減らすことができ、採用枠も増えるから就職難も緩和され、また学生が「大手で限定社員か中小で幹部候補か」という選択肢を持つから現在人手不足である中小企業にも人材がいきわたる、としている。
でも、本当にそうかと思うわけである。
これは入口部分をいじるに過ぎなくて、出口部分では今まで通り厳しい解雇規制に総合職正社員が守られている。
となると結局、相対的に弱い立場に立たされてるという点では非正規社員も新型正社員も変わりはなくて、看板を替えても今まで通りの分断統治は続くんだろうなと予想できる。
そしてほとんどの学生が大手の総合職を目指すという状況にも変化は起きないから中小の人手不足は変わらない。
つまりこの分断統治をどうにかしない限りは状況はかわらんだろうな、と思う。
で、分断統治をどうにかするには解雇規制を緩めるしかないのだけれど、問題はその解雇規制が明文化されていないということにある。
つまり裁判所のさじ加減でどうにでもなってしまう、と。
だから割と簡単に労働者を解雇できる旨を労基法にでも明文化すべきなんだろうけど、多分それをやると当の有権者が反対して廃案に追い込むんだろうな、フランスみたいに。
次に④。
筆者は、派遣スタッフがハローワークの管理するデータベースに登録し、派遣会社がそのデータベースにアクセスして仕事を紹介するという仕組みを提唱しているのだけれど、問題は市場原理が働くなることだと思う。
派遣会社としてはできるだけ多く求人を集めて来ようとするだろうけど、その際に勝負できる部分がマージンの値下げぐらいしかなくなる。
となると体力のある企業だけ勝ち残って独占状態になる。
労働者の派遣は全て行政が行う、とするならわかりやすいのだけれど、民間企業も一緒に残すのはなぜ?
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