ソーシャルなLang-8のコミュニティ/【書評】『日本的ソーシャルメディアの未来』
最近は、mixiだのtwitterだのFacebookだのGoogle+だのLinkedInだの、ソーシャルメディアなるものが乱立しています。
中国では基本的に世界的なSNSには接続できないことになっているんですが、ではこういうものが全くないかと言うとそういうことはなくて、
MSNメッセンジャーみたいなQQやtwitterみたいな微博、Facebookみたいな人人网など、代替的な国内産サービスが普及しています。
東南アジアでもFacebookを使っている人は多くいると聞きますし、(なにせfacebookサンダルが売っているくらいだ)世界的な規模で普及しているらしい、このソーシャルメディアとやらは。
で、そもそもソーシャルメディアってなんなんだ、というところから始まり、あわや日本の教育の問題にまで発展しかけたのがこの本である。
本書の大前提として、共同体(コミュニティ)と社会(ソサエティ)の違いが最初に述べられる。
共同体(コミュニティ)は成り立ちに置いて生得的で、規模は一般的に小さく、メンバーは同質的で、全てのメンバーが同じ時間を共有する(地域共同体の祭りをイメージするとわかりやすい)という長期的な関係を結ぶ。
一方の社会(ソサエティ)はこの逆で、メンバーの契約によって成り立ち、規模は大きく、メンバーが多様で、メンバー同士が過ごす時間は短期的で流動的である。
これが社会学の基本らしい。
少し前までは「ネットコミュニティ」という言葉が一般的だったのが、現在は「ソーシャルメディア」という言葉が台頭してきたことからもわかるように、
インターネットの世界は共同体(コミュニティ)と社会(ソサエティ)の両方の性質を兼ねそろえている、というのが筆者の基本的な認識である。
この認識から、なぜおじさんはソーシャルメディアを使いこなせないのか、なぜソーシャルメディアに疲れるのか、などの話に発展するが、それは本を読んでいただくとして。
Lang-8というSNSがある。
言語を勉強できるよう、書いた日記を添削し合うことのできるSNSである。
このSNSを共同体(コミュニティ)と社会(ソサエティ)という観点から分析してみると面白いのではないかと思う。
Lang-8で日記を書くと大抵の場合は10分以内に添削してもらえる。
それは自分が母語として使っている言葉(僕だったら日本語)で書かれた最新日記が個々人のマイページに表示されるようになっているからである。
一方で、Lang-8ではmixiやFacebookのように、双方の合意によってフレンドになることができる。
フレンドが書いた日記もまた、新しい順にマイページに表示される。
つまりLang-8で書いた日記が添削される主なルートは、フレンドでない人がたまたま日記を目にして添削してくれるか、フレンドが読んで添削してくれるかのどちらかである。
たまたま日記を添削してくれた、現在フレンドでない人と、その後フレンドになるかどうかは双方の働きかけ次第である。
Lang-8には、Facebookやtwitterのような、知り合いやお勧めのユーザーを知らせてくれる機能はないので、フレンドは色んな性質の人が集まりやすいといえる。
Lang-8の特徴を挙げると、次のようになる。
1.ユーザーが全世界にいる
2.関係が比較的流動的
3.フレンドの性質が多様
ここから、Lang-8は社会(ソサエティ)的な要素が強いということができる。
色んな人に日記を見てもらえるのはLang-8の強みではあるのだが、逆に弱みであるのかもしれない。
もう少し共同体(コミュニティ)的な要素を強くしてもよいのではないかということである。
例えば、同じ興味を持った人同士が集まった方が、お互いの日記を添削しやすいことがある。
具体的には、スポーツや自然科学など専門用語が使われる記事を添削する際には、言語能力とともに、テーマに対する知識も必要である。
中国ではマイナースポーツである野球について書くと、なかなか添削がつかない。
しかし、野球の好きなフレンドを探しやすくする、あるいは野球が好きな人には野球の記事が表示されやすくなる、などのシステムがあれば、この問題は解決できる。
同質的なフレンドと出会いやすくする、つまり共同体(コミュニティ)的な要素を入れることで解決を図るのである。
もっともLang-8は現在、1人で運営しているような状況らしいので、早晩なんとかしろというのは酷かもしれない。
ディープな交流がしたければ、システムに頼るよりも、自分の力でコミュニティを作りなさいということですわね。
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