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2011年11月26日 (土)

中国で一番有名な日本人/【書評】『われ日本海の橋とならん』


自称「中国で最も有名な日本人」、加藤嘉一氏の著書です。
中国に住む人間としては読まずにはいられませんでした。
中国で最も有名と言いつつ、新浪微博のフォロワーは、加藤氏94万に対して今のところ蒼井そら(820万超!)の方が多いんですが。
そして原紗央莉が62万と猛追しているんですが、それは置いといて。

加藤氏は中国においては「年間300本以上の取材を受け、200本以上のコラムを執筆し、100回以上の講演を行い、毎年2~3冊のペースで書籍を出版している」(7ページ)ほどの有名人だそうです。
最近は日本での活動も増えてきたようで、「朝まで生テレビ!」にも出演しているそうな。

ネット界隈で彼の名前が大きく知られるようになったのは、李小牧という人の書いた「中国で一番有名な日本人、加藤嘉一君への手紙」と題する記事がきっかけだと思います。
この記事にコメントする形で、主に加藤氏への批判が聞こえるようになりました。
その時の様子はこのあたりが参考になります。

---加藤嘉一を論じる
http://togetter.com/li/160484

---そんなに「加藤嘉一くん」は悪者か?…から始まったカオス的大討論
http://togetter.com/li/160499

主な批判は、彼が二枚舌であるとか、日本社会を知らないとかいうところにあるのだと思います。
そもそも「中国で最も有名な日本人」という肩書を自分で名乗ってしまうくらいビッグマウスなので、叩かれる素養は元から充分にあります。
単なる妬みに基づく批判(というか暴言)も少なからずある気がしますが、そういうのはほっとけばいいです。
彼の中国での活動には詳しくないので、二枚舌や社会を知らないという批判については大したことが言えないのですが、そういうことはあるかもしれないとは確かに思います。
彼に関する最もクリティカルな批判はこれではないでしょうか。

---加藤嘉一さんについて私が思うこと
http://zhongwenfanyi.blog69.fc2.com/blog-entry-553.html

要約すると、「彼は大したことを言っていないがなぜか重宝されている。中国政府がいいように利用したいだけなのではないか」という批判です。
もっとも、中国当局の意向と加藤氏本人の意向は別々です。
基本は彼の主張や行動によって評価すべきです。
下手なことを言えばつぶされる人間の主張や行動を評価することほど難しいこともない気もしますが。

彼に関して良い評価をすべき点は、日本と中国の間に立ち、1.中国で、2.中国語で、3.中国人に向けて、4.日本人として、発信していることです。
そして、最近では、日本で、日本語で、日本人に向けて発信する機会も増えてきました。
このポジションで活動できる日本人は、過去にいたかどうかは知りませんが、少なくとも現在ではいません。
まさに「日本海の橋とならん」としていることがうかがえます。
彼の主張や活動を精査することは必要ですが(そして現在それをできる立場の人間がいないのは問題ですが)、この立場を確立したことは称賛すべきでしょう。

思えば、これまでは、中国に関することは、中国マニアが、中国マニアに向けて、マニアックに発言していたという状況ではなかったでしょうか。
私は中国に来る前に、中国関係の本を読もうと探してみましたが、適当な難易度のものがなかなか見つかりませんでした。
小田空さんのエッセイ『中国の思う壺』なんかは、難易度はちょうどよかったですが、現代の中国の状況を扱ったものではありません。

本書は、その「ちょうどよい」部分に当てはまる本だ、というのが私の評価です。
中国社会についてわずかでも関心を持つ人にはぴったりなのではないでしょうか。
加藤氏についての批判によくあるように、考察が浅いと感じる部分はありますが、本書があるテーマについて深掘りするタイプの本ではない以上、その点についてはあまり批判できません。
むしろ、現代中国をとりまく状況を広範にカバーしながら、「日本人よ、外を向け!」というメッセージに帰着させている点を評価すべきです。
中国社会を考える第一歩として有用ですが、個々の日本人の在り方を考えるきっかけにもなると思います。

今後筆者に期待することは、彼に寄せられる批判を、あるものはスルーし、あるものには反論し、クリティカルなものについては改めることです。
あとは、彼がインタビューや文献の渉猟を行って書きあげた、濃度の高い著作が読みたいですね。

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