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2012年4月29日 (日)

【書評】民法改正

内田貴先生と言えば、民法書で家が建ったといううわさがあるくらいに有名な民法学者です。
民法に関しては学説≒内田説くらいの勢いです。
その内田先生が、ご自身も関わっている現在進行中の民法(契約法)改正作業に関して新書で出していたのを本屋で見かけて初めて知り、衝動買いしました。

内田先生が挙げる、民法を改正しなければならない理由は、民法が古いことと、一般国民にとってわかりづらいことです。
現在の民法典の下地は、不平等条約を改正するための前提をつくるべく突貫工事で1890年に制定された旧民法にあるわけですが(ボワソナードとかが出てくるあれ)、
その後、1896年に新民法が施行されて以来、契約法に関しては大きな改正がされていません。
財産法部分の改正や、法人に関する部分を抜き出した会社法の制定、民法の口語化などはありましたが、契約の部分も同様に改正する余地があるということです。
明治時代のドタバタの中でエリート精鋭集団が急ピッチで作業を進めたため、もとより国民にわかりやすくという視点はなかったことでしょう。

民法が古くなると、当然、民法が想定していない契約の類型が登場します。
例えば、民法が想定している契約は、AさんとBさんが物を売買する契約を結ぶ、というような、登場人物が2人しかいない契約なので、
Cというクレジットカード会社が介在するのは想定外です。
現在は、カード払いに関して民法に記載がないことによって問題になった例はないようですが、近い将来問題になる例が出てくる可能性はあります。
また、判例や解釈の比重が大きくなるので、国民にとってどんどんわかりにくくなっていく、という問題があります。
英米のような、判例に法的拘束力を認める国ならともかく、建前上は制定法が主体であるべき日本において、肝心の制定法の文面からの根拠がどんどん薄くなっていく、というのはまずくないでしょうか。

古くなったものを改めるということについて、憲法という国家を縛る法律の改正については賛否両論あるでしょうが、
民法のように国民の生活に関わる法律を改正するということについてはコンセンサスが得られやすいかと思います。
問題は、民法を改正するコストとリターンが見合うかということです。
内田先生が弁護士からの反論として書いているように、「解釈でうまく回っていて別に何も困っていないのに、何をわざわざ改正する必要があるのだ」(13ページ)という問題です。
この点に関して、内田先生は国際取引においてわかりやすい法典を準備しておくことの重要性や、グローバルスタンダードとなる法律を持ち、
特に法整備がこれから進むであろう東南アジアの発展途上国に規範を示すことの意義を挙げています。
これらの点に関しては、抽象的な話になるので説得力に欠くという印象です。
もっとも、民法学者である内田先生にこの分野の話を期待するわけにはいかないでしょう。
民間レベルでの議論が盛り上がり、『民法改正のコスト』みたいなタイトルの新書が出て、数字を含めた議論が展開されれば本書の試みは成功と言えるのではないでしょうか。

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