【書評】『MAKERS』
さすがは『ロングテール』『フリー』のクリス・アンダーソン氏、非常に刺激的な本でした。
自然とDTPやCADのソフトに触ってみたくなります。
今回はIT分野よりは製造業がメインの話でしたが、本人の起業体験を踏まえて「メイカームーブメント」の意義が書かれており、今後数年の動きが非常に楽しみになりました。
メイカームーブメントとは何か。
私の理解によれば、あるモノに関するアイデアを持った個人が、少ない負担でそのアイデアを形にできるようになることです。
これまでは、アイデアを形にするのは大変なことでした。
主なルートは企業に売り込むか、自らが製造装置や材料を購入して作るかでしたが、どちらにしてもお金や労力が必要になります。
しかし、今ではそのような負担は必要ではありません。
インターネットを使って、世界共通のファイル形式で図面を送ることで、簡単に中国あたりの業者に製造を委託できるようになったからです。
もう少し経てば、3Dプリンタが個人で持てるくらいに安価になることも見込まれています。
また、Kickstarterのようなクラウドファンディングのウェブサイトを使えば起業資金を集めることができ、副次的効果として、初期マーケティングや、ファンを集めることもできます。
さらに、メイカーの集まるネットコミュニティでアイデアを公開することで、モノをより良くするためのアドバイスを得られるかもしれません。
しかも、そのアドバイスをくれる人は、どの大企業に属する研究者よりも優秀かもしれないのです。
氏いわく、オープンソースソフトウェアならぬ、「オープンハードウェア」です。
このメイカームーブメントは、マス向けに製品を売る大企業を脅かすものではありません。
依然としてコモディティは大企業の得意分野であり続けるでしょう。
メイカームーブメントの意義は、個人が趣味でものづくりをしたり、アイデアを武器に中規模でニッチな市場を攻めたり、といったことが簡単になった点です。
この点で、大企業よりもむしろ中小企業がメイカームーブメントの潮流に乗れるかどうかが重要ではないかと考えます。
いくら中国の工場で安価に製造してもらえるとはいえ、言葉や輸送など様々なコストやリスクを考えたら、多少割高でも日本人であれば日本の工場に作ってもらいたいでしょう。
作ってほしい個人メイカーと、小ロットでも製造を請け負ってくれる工場がインターネットを通してやり取りできればお互い幸せになれるのではないでしょうか。
また、日本の工場の中には、他にはない技術を持ったところがあるといいます。
肉眼では見えない歯車を作れるとか、ともすればニッチになりがちな技術だったりもしますが、そのニッチな技術への需要を世界に求めることができれば、日本の小さな工場でも活路が開けます。
このようにモノを作ってくれる工場への需要に加え、メイカーと工場をマッチングするサービスにも需要があるでしょうし、中小企業向けにITコンサルをやれば流行る気がします。
私も何か作ってみたくなりました。
iPhone5のように見えるiPhone4のケースを真似て、Lumia920のように見えるLumia610のケースでも作ろうか。
いやいや奇を衒わなくても、Lumiaのケースって十分にニッチだぞ、Nokiaの専売店以外で売ってるの見たことないし、などと考えていたところ、こんなニュースがありました。
---Nokia、Lumia 820のケースを3Dプリンタで自作できる開発キットを公開:ITmedia
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1301/20/news006.html
ファイルを公開したところで、Nokiaにとってはユーザのロイヤリティ向上くらいしかメリットがないと思いますけれども、メイカームーブメントに乗った動きが見られると非常にわくわくします。
いやあ、ものづくりの世界は門外漢だけど、面白そうだなあ。
おそらく大連にはまだ3Dプリンタとか触れる場所がないのが残念だ。
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