【書評】『台湾の歴史』
さて、そんなWBCの台湾戦ですが、試合外でも注目を集める出来事がありました。
東日本大震災の際に台湾が寄付を送ってくれたことに対する横断幕を観客が掲げ、それに対して台湾の選手がお辞儀で応えた、というものです。
この出来事は美談として、TwitterなどのSNSで話題になり、台湾に感謝を示す書き込みをよく見ました。
しかしながら私はこのSNSでの反応に何やら違和感を覚えました。
原因をたどってみるに、違和感の正体は「現在SNSにあふれている親台湾的な言動は、反中国大陸の裏返しなのではないか」というところに行きつきました。
つまり、「私は中国大陸が嫌いで、台湾は中国大陸からいじめられている。ということは台湾は日本の仲間だ」というロジックが無意識のうちに働いているのではないか、ということです。
台湾のことをよく知らないまま、「敵の敵は味方」の論理だけで「台湾大好き!」などと言っているとしたら、その親台感情は案外ぜい弱なのではないかなあ、と思います。
ということをLang-8に書いたところ、台湾の方が、
「これまでに会った日本人の半分は台湾を知らなかった。初めて知らないといわれた時はショックだった」
とコメントしてくれました。
確かに以前の日本人の認識はそんなものだった気がします。
かくいう私も中国に来て1年くらいは台湾と香港をごちゃ混ぜにしていましたし、これは台湾のことを勉強せねばと痛感して冒頭の本を読みました。
台湾の対日感情が良好なのは、植民地時代の日本の統治が良かったからだ、という説明がなされることがありますが、これは正確な説明では無いように思います。
日本が統治を開始した初期には大きな抗日運動も発生していますし、その際には日本人とともに多数の台湾人も死んでいるようです。
事件の処理にあたっては本国からも非難されるほどの処分が運動にかかわった者に下されたようです。
差別的な取り扱いも恒常的にあったようなので、特に日本統治初期に物心ついていた台湾人には日本を快く思っていない人も多かったと思われます(もっともこの世代は、現在はほぼ寿命を迎えているでしょうが)。
統治後期の皇民化政策はずいぶんうまくいったようで、1942年に行われた第1回陸軍志願兵の募集では、42万人以上が申し込んだほどだそうです。
このころに従軍していた人たちはほとんどが現在は80から90代になっているでしょうか。
この世代の対日感情は悪くないようですが、戦後に生まれた世代は日本統治時代の教育を奴隷化教育として否定されているので、親世代と社会との矛盾から複雑な感情があるようです。
本書では、1987年に戒厳令が解除され、中国共産党との戦争状態が解けてからの、民主化や現在の一国二制度体制ができる過程は描かれていないため、現在の若者世代の対日感情がどのように形成されているかはよくわからないところがあります。
先日、台湾出身の人に聞いたところ、J-POPなどのサブカルチャーの影響が大きいと言っていましたが、だとすれば政治的な要因で容易に悪転しえますし、また中央と地方でも差がありそうです。
尖閣諸島の問題では台湾当局も日本の主権を否定していますし、日台漁業協定は漁民の間での争いを引き起こす可能性があります。
このような火種がある中で、「台湾は親日」という幻想にあぐらをかいていると、いつか痛い目に遭うのではないかと懸念しています。
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