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2015年6月20日 (土)

【書評】境界の民

安田峰俊氏といえば私が初めて読んだのは『独裁者の教養』でした。
8人の独裁者についての伝記と、地図に載っていない「独裁国家」であるワ州への潜入記が大変に面白かったのですが、
一方で展開されていた加藤嘉一氏への批判が不要なのにわざわざ書いたように感じられました。
この加藤氏批判が引っかかってしばらく安田氏の本は避けていたのでなぜこの本を買ったかよく覚えていません。
Twitterの誰かのツイートだった気はしています。

さて、本書は情報を整理して考察する部分が一角を占めていた『独裁者の教養』とは異なり、大部分がワ州潜入記のようなルポルタージュです。
ベトナム難民二世やウイグル人など、国民国家の「エラー部分」扱いをされがちな人々への取材を通し、

国家という枠組みを取り払ったそんな場所で生きる人たちが、本当に大事にしているものは何だろうか。それを知ることで、人間が生きる上でもっとも大事なものが何なのかが見えてくるかもしれないとも考えたのだ。(21ページ)

という問題意識で全編に渡って書かれています。

『独裁者の教養』のワ州潜入記で発揮されていたフットワークの軽さは本書でも健在で、
特に第二章と第三章で書かれているウイグル自治区での取材などは、現地のウイグル人に比べたら身の安全が保証されているとはいえ、
本には書かれていない危険も多かったのではないかと想像します。
『和僑』など、安田氏の他のルポルタージュも読みたくなります。

また、台湾の太陽花学運を取材した第六章では、日本人の「親台」的な感情に対して覚えるモヤモヤした気持ちを上手く説明してくれています。
私は2013年ワールドベースボールクラシック(WBC)の日台戦後の親台的な言論が、反中感情とコインの裏表の関係にあるのではないかと感じていました。
「台湾は親日だ」というときには多くの部分に幻想が含まれているものですが、
台湾人の中にも同様に「日本は親台だ」というのが幻想だと感じている人がいるようです。
「自分たちを本当に理解してくれる海の向こうの他者-という都合のいい存在は、この世界にはなかなか存在しない(268ページ)」のです。

「外国人」「少数民族」といったわかりやすい例でなくとも、「正社員と非正規社員」「リア充と非モテ」など社会には様々な強者と弱者の軋轢が存在します。
また、第一章でベトナム難民二世が同じ二世をいじめるエピソードのように、マイノリティ内部でもカーストのようなものが存在する場合があります(私のような現地採用者なんぞは在中日本人カーストのど底辺です)。
そして、その強者と弱者の力関係はいつ変わるかもわからないのです。
第五章は、

現代中国の国家のかたちは、紅五類と黒五類による歴史のオセロゲームの結果でしかない。(220ページ)

という一文が印象的ですが、この手のオセロゲームは社会のいたるところで見られます。
かように強者と弱者の立場が逆転する「革命」が起きうる社会において、筆者は「身近な境界の民たちの存在を認識することが必要だ(279ページ)」としています。
言い換えれば、「弱者」「マイノリティ」とされている人々への想像力を持とう、ということではないでしょうか。

もちろん簡単なことではありません。
特に社会を画一化する同調圧力が働きやすいとされる日本ではそうでしょう。
また、当事者でない限り当事者の気持ちを理解することは不可能です。
それでも、社会の「エラー」を認識する意識は持ち続けたいと、そのように思います。

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