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2017年6月17日 (土)

台湾製ホラーゲーム『返校』

台湾の戦後史というのはアンタッチャブルなところがある。
1947年の二・二八事件に端を発する戒厳令の発令があり、「白色テロ」と呼ばれる恐怖政治で思想弾圧が行われた。
多くの知識階級が処刑され、中には権力闘争に巻き込まれて無実の罪を着せられた者もいるそうだ。
このあたりは『図説 台湾の歴史』に詳しい。
『悲情城市』(1989年)、『超級大国民』(1995年)など、二・二八事件に言及する映画が登場したのは、1987年にようやく戒厳令が解かれてからのことだ。

昨年は、『超級大国民』をデジタルリマスター化したり、ボードゲーム『モダンアート』を二・二八事件で処刑された画家・陳澄波の絵でリメイクしたりと、戦後の台湾社会を再評価するような動きが見られた。
くだんの太陽花学運に代表される近年の台湾アイデンティティーの高まりによって、この時期の出来事も再検討が進んでいるのかもしれない。
ホラーゲーム『返校(Detention)』も、このような流れの中に登場した作品であると位置づけることができよう。

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このゲーム、導入部分では、学校を舞台にしたよくあるホラーゲームのように見える。
台風警報が発令され、ほぼ全生徒が下校した学校に残された男子が、同じく取り残された女子と出会い、2人で協力しながら学校からの脱出を目指すのだ。
しかし、そのような『学校の怪談』的なハッピーエンドが約束されていそうなストーリーと見るには画面全体がいかにも暗い。

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この暗さにあおられた不安は、序章が終わると現実化する。
第1章が始まると状況が一変し、ここに置いてようやく、プレーヤーはただならぬ状況に置かれていることを理解する。

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前半は、よくわからない状況に置かれた恐怖と戦いながら学校からの脱出を目指すホラーゲームなのだが、
後半になると、事件の真相を明らかにするストーリー重視のゲームとなっていく。
戒厳令下の台湾という特殊な時代背景と、いたるところに散らした暗喩で、物語を重層的に仕上げている。
タゴールの詩や『韓非子』の一節の引用なども印象的だ。
恐怖感をあおるビジュアルや音楽など、ホラーゲームとしてクオリティーが高いのだが、このストーリーこそが『返校』というこのゲームの肝といっていい。

布袋劇やポエ占いなど、台湾独特の文化が多数登場するため、人文的にも面白い。
さらに、ゲーム中に当時は禁歌とされていた曲を使用したり、正式リリース年に戒厳令解除から30周年の年を、リリース日に蒋経国(戒厳令を解除した台湾総統)の命日を選んだりするなど、時代背景を大きく意識した仕掛けがゲーム内外に見られる。

台湾の戦後史は学ぶ機会が少なく、日本ではあまり知られていないかと思う。
現在、日本語版がないのが残念であるが、英語か中国語が読める人には、ホラーが苦手でなければぜひチャレンジしてほしいゲームだ。

ゲーム中に登場した暗喩などの解説はこちらのページが詳しい。
クリアした方で、中国語が読める人は目を通してみると新たな発見があるかもしれない。

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