【書評】『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ』
この本を知ったのは何かの書評を通じてだったと思う。
その書評には、「鳥類学者が書いたエッセイは面白い」といった内容のジンクスが書かれていたように記憶している。
もちろんそこにはなんの因果関係もありゃしない。
しかし、同じく鳥類学者が書いた『ダチョウ力』も面白かったので、その主張に根拠のない説得力を感じて本書を手に取ったのだ。
果たして、本書は非常に面白く読むことができた。
なにせ、書き出しからしてこうだ。
おにぎりを食べていると、しばしば愕然とさせられる。なんと、梅干しが入っているのだ。ウメはアンズやモモの仲間、紛れもない果物だ。フルーツを塩漬けにして、ご飯に添えるなど、非常識にもほどがある。私が総理大臣になったら、果物不可侵法案を可決し、梅干しを禁止、フルーツの基本的権利を守ることを約束する。ついでに酢豚からパインを排除しよう。(p.1)
このような、ともすれば回りくどくなりそうな文体を使っておりながら、しっかりと読ませる文章になっている。
一見ふざけているようにも見えるのだが、内容の方はといえばさすがは鳥類学者だ。
『外来種は本当に悪者か?』でもとりあげられていた生物多様性の是非の話や、環境問題と貧困の関連といったディープな話題を軽妙な筆致でコーティングとして取り上げている一方で、
「キョロちゃんを生物学的に分析する」というちょっとした面白ネットメディアの記事のような、しかし専門家でなければ書けない文章も収録されている。
興味深いと思ったのは、第二章と第六章だ。
第二章では南硫黄島のフィールド調査を行ったときのことが書かれている。
この島は立ち入りが制限されており、滅多に調査できないのだそうだ。
ネズミやカラスなど死肉を食べる脊椎動物がおらず、海鳥の死体の分解ペースが遅いため、島には多くの死体が落ちていること、
それがゆえにハエ天国となっていることなど、現地調査の泥臭い部分に触れることができる。
次の部分が印象的だ。
持ち帰ったサンプルを分析している頃、南硫黄島の映像がテレビで放映された。調査には映像記録班が同行していたのだ。そして吃驚仰天した。なんと、画面に映った南硫黄島は非常に美しかったのだ。……騙されちゃいけない。美しいだけの自然なんてない。テレビの風景は嘘ではないが、真実の一部でしかない。(p.65)
また、第六章には、筆者がかつて犯した失敗や、自身のウィークポイントについて書かれた部分がある。
学者とはいえ苦手なことはあるもので、非常に親近感がわく。
筆者は、学者の仕事のひとつである研究成果の報道発表について、実利がなく手間がかかるにもかかわらずこれを行うのは「普及啓発が鳥学に欠かせないからだ」(p.164)としている。
本書は決して学術的な記述を前面に押し出した本ではないが、鳥の研究について知的好奇心をビシビシと刺激してくる。
実にこの普及啓発という観点から評価すべき1冊ではないだろうか。
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