【書評】『母さん、ごめん。』
日経ビジネスオンラインで連載されていた「介護生活敗戦記」の書籍版。
科学ジャーナリストを本職とする松浦晋也氏が母親を介護した体験談が書かれている。
書籍化するにあたってずいぶんエモい感じのタイトルに変更されてしまったが、一般読者向けにはこういうタイトルの方がいいのかもしれない。
本書は本文についてはそういうエモさを極力排して書かれている。
筆者が本職で培った態度が生かされているのだろう。
「家族の面倒は家族で見るべきだ」、「施設に入れるなんてかわいそうだ」などといった感情論や根性論を否定し、自身の経験に基づいた持続可能な介護方法を伝えてくれている。
自身の感情の変化の記述も可能な限り客観的に書こうという意図が見て取れる。
母に手を上げてしまう章は連載時にも読者からかなりの反響があったようだが、非常に共感でき、未来の自分を見るようで何度読んでも心が締め付けられる。
本人は「敗戦記」と称しているが、そもそも介護という営み自体が本質的に撤退戦であり、勝利が存在しないというのもまた本人が記しているところだ。
そのため、終わりが見えない中でいかにソフトランディングさせるかを考え、外部の力を積極的に頼っていくことが必要となる。
その「外部の力」の一つが本書でも何度も出てくる地域包括支援センターこと「包括」だ。
私もいつ介護生活に突入するかわからない身なので、さっそく最寄りの包括を調べてみた。
とりあえずどこにあるか知っているだけでもいざというときに心強い。
ところで、根性論を排して持続可能な運営体制を整えるのは、ビジネスのマネジメントにおいても重要なことだ。
仕事が回っていないのであれば、個々人の長時間労働に頼るのでなく、人員を増やすなり、仕事を減らすなりの方策が必要となる。
このような類似性があるからなのか、優秀なビジネスマンほど介護のドツボにはまってしまうのだそうだ(日経ビジネス電子版「会社員として優秀なほど「介護敗戦」に突き進む」)。
ビジネスは基本的に明日の成長を目指すのに対し、介護は日に日にできないことが増えていく。
介護と子育てが比較されることもあるが、子どもは成長するという点がやはり決定的に違う。
だから、撤退戦の戦い方を教えてくれる本書の意義は大きい。
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