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2020年5月 9日 (土)

【書評】『ファクトフルネス』

 

海外経験がある人ならわかってくれると思うが、日本人は海外のことを本当に色眼鏡で見る。そして日本になじみのないことを説明するのは実に骨が折れる。これは逆もまた然りで、海外で思わぬステレオタイプをぶつけられることもある。

結局のところ、「日本人は」というか、「人間は」誰しも自分の経験した枠組みの中でしか物事を考えられないのだ。たとえ海外経験があっても地域や時代が違えば話は通じなかったりする。

『ファクトフルネス』は、物事の見方をゆがませる人間の本能を10種類に分類し、ファクトフル(事実に基づいた)な物の見方をレクチャーする本だ。

直観と経験でものを考えるのは限界がある。認識を常にアップデートしなければ、著名な学者やエリートだって三択問題の正解率でチンパンジーに負けてしまう。ドラマティックな、あるいは過激なニュースを見たときは、少し立ち止まり、ファクトフルに考えよう。

訳者の上杉周作氏があとがきで書いている「必要なのは、誰もが『自分は本能に支配されていた』と過ちを認められる空気をつくることです」(p.342)という点は重要だと思う。フェイクニュースや詐欺に騙された人を叩いても、騙す側が減るわけではない。自分は騙されないと思っていても、永久に引っかからない保証はない。詐欺の被害者だって「まさか自分が」というのだ。あなたが叩いた人は将来のあなたの姿かもしれない。

もう一つ重要だと思ったのは、情報の価値に対する認識だ。ファクトフルネスのすべての基礎は情報である。しかしながら、厄介なことに「情報はフリーになりたがる(information wants to be free)」。公共の福祉の観点から行政が情報を積極的に公開することが大切なのはもちろんのこと、民間の機関や個人がまとめる情報の価値も適切に評価したい。

ウィズコロナとかアフターコロナの時代がどうなるかはわからないが、今後も数々の情報が生み出されていくであろうこれからの時代においてはファクトフルネスの実践が大切だということは間違いなくいえる。原発の事故のときも今回のコロナ騒動でも「正しく怖がる」という言い回しを見かけるが、そのベースとなるのはファクトフルな認識だ。情報の海に暮らす我々が日常生活を送る上で出会う最大の敵は、肉食獣でも妖怪でもなく、人間の本能に訴えかけて社会の分断を狙うアジテーターである。人間が狩猟生活をしていたときは石槍を武器に狩りの腕を磨くことが大切だったが、現代では情報を武器にファクトフルネスを実践することが求められるのだろう。

 

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