もはやショッピングモール?台湾発「誠品書店」のここがすごい!
すでに2月に入っており、中国はもうすぐ旧正月を迎えるというタイミングでなんなんですが、年末年始に台湾に行ってきました。
この旅がまたトラブル続きで大変だったんですが、その顛末はLang-8に書いたので暇すぎてつぶしているプチプチがもう3枚目に入っているという人は読んでみてください。
troubling 台湾(1)
troubling 台湾(2)
troubling 台湾(3)

さて、台湾では故宮博物館や九フンなどの観光地を回りまして、もちろん非常によかったのですが、そのような名勝旧跡とは別に印象に残ったのが、「誠品書店」という書店でした。
大変に気に入ったので、大連に帰ってきてからも百度で検索をかけたりして話題を追っていたのですが、最近いくつか記事になっていたので、これを機にまとめてみたいと思います。
これがまあ出版不況なんぞどこへやら、というすごさなのです。
なお情報はこの辺りから取ってきております。
eslite 誠品
http://www.eslitecorp.com/TW/Index.aspx
旅々台北 [誠品信義店]
http://www.tabitabi-taipei.com/html/data/10390.html
两岸聚焦:复合式经营,诚品书店的制胜之道:娱乐中心_中国网
http://news.china.com.cn/rollnews/ent/live/2013-01/24/content_18363172.htm
诚品书店跻身台湾OTC市场 大陆首店或年内开张:新浪财经
http://finance.sina.com.cn/stock/t/20130201/021714470708.shtml
誠品書店は1989年に小型の人文芸術書専門書店として開業しまして、今に至るまで「人文」「芸術」「創意」「生活」を企業理念としております。
そういうのが好きな人ならもうこの時点でノックアウトされてしまうような華々しさです。
本屋とはいえ、この書店、ある時期から多角的経営を始めました。
例えば誠品書店の旗艦店である信義店では、カバンやらメガネやら家具やらを売るテナントが入っており挙句フードコートなんかも用意したりして、もはやショッピングモールという様相を呈しています。
書店業というよりも不動産業という方がしっくり来ます。
信義店、敦南店、火車駅店などの大型店舗においては、書籍売り場の面積は全体の20%から30%にすぎないそうです。
多角的経営で成功した稀有な例と言えます。
なおこちらで売っている商品はどれもデザインがよく機能的で値段もそこまで高くない、と日本でいう無印良品のようなポジションです。

ずいぶんと儲かっているようです。
上にあげた新浪财经の記事によりますと、1月30日に台湾誠品集団傘下の誠品生活株式会社(おそらく生活用品の類を扱う部門を担当している会社)が台湾の兴柜(香港のGEMに相当する)からOTC市場(場外交易市場)に上場すると、6.5億台湾ドル(約20.5億円)を調達し、初日にして株価が27%上昇し・・・といっても金融に明るくない私にはすごさがようわかりません。
どなたか金融に詳しい人、教えてください・・・。
店舗数にして大型総合ショッピングモール形式の店舗が42店、さらに小型の書店が何店もあるそうです。
この1年で来客の数は1.2億人を突破し、そのうち200万人が観光客。
2011年と比べて2012年の業績は10%伸び、書店の部分だけでも6%伸びているのだとか。
大型総合ショッピングモール42店舗のうちの1つが昨年の8月に香港にできた初の海外店(外国かどうかはともかく、海の外ではありましょう)、銅鑼湾店です。
こちら、なんと開店から半年経たずしてすでに台湾旗艦店の売り上げを抜き去っているそうです。
今後は香港の中環と九龍に3店舗開き、24時間営業を実現するほか、大陸への進出第一弾として、今年末には蘇州にも出店する計画です。
蘇州店は公式ページでも述べられているとおりの2014年開業という見方が大半でしたが、新浪财经の記事によれば誠品生活の総経理が今年末と話しているそうで、予定が早まっているのかもしれません。
また、10年以内に大陸で100店舗を目指すという話も報道されておりまして、おそらく上海や深センなど、富裕層の多い南の方から攻めていくのでしょう。
経済発展の取り残されている東北地方に出店する見込みは少ないでしょうが、ぜひ大連に来てほしいと心より願っております。
また、台湾内では、松山文化園区内に店舗を開く予定です。
この松山文化園というのは、煙草工場の跡地を有効利用すべく台北市がクリエイティブをテーマに再開発しているところです。
わたくし、ここは全く知りませんでした。
ぜひ行きたかった。
ここにできる予定の店舗がまたすごくて、従来あったモールや書店に加え、初めて手を出すホテルや映画館、音楽ホールも備え付けるという壮大な計画となっております。
今年の第2、第3四半期あたりで開業予定だそうで、その暁にはぜひまた台湾に行きたいと割と本気で考えています。
さて、この誠品書店が儲かっている理由を3つ上げたいと思います。
1つは、多角的経営により書店としての魅力を高めていることです。
どれだけ経営を多角化しようとも、書店業を放棄するつもりはないようで、それこそが誠品の魅力だともいえます。
芸術書専門店から始まっただけあって、商品のデザインや売り場の雰囲気は相当に洗練されています。
観光客が多いというのもうなずける話です。
特に、大陸からの観光客の4人に1人がここに訪れているという統計がありますが、あの魅力を有している店舗は大陸では見つからないでしょう。
2つ目は、「大陸では手に入りにくい本」が手に入ることです。
自称中国で一番有名な日本人氏の本など。
その手の本が観光客を引き付けるであろうことは想像に難くありません。
これはまあ中国特有の事情です。
3つ目は、これは香港特有の事情ですが、物流コストが高いことです。
中国大陸ではアメリカや日本などと同様に、実店舗の本屋さんが苦しんでおるそうですが、それはネット書店が安い物流コストを背景に大胆な値引きができるからです。
人件費や管理費などで一定の費用が必ずかかる実店舗ではちょっと真似できないレベルで値引きしています。
しかし香港では物流コストが高いため、実店舗も比較的対等に戦えているという見方が新浪财经の記事で紹介されていました。
なおこの点、再販価格維持制度のある日本はまだ恵まれているのかもしれません。
2点目、3点目は環境要因なので、誠品の最大の成功要因を挙げるとすれば1点目になりましょう。
誠品の成功要因を分析したところで、日本の本屋さんが、じゃあうちも、とはならないでしょう。
日本で特に危機に瀕している個人経営の本屋さんが、なるほど、じゃあ多角的経営に乗り出そう、となる体力など望むべくもないですし、あったとしてもまあ失敗すると思います。
それでも、学べるところはあるのではないでしょうか。
誠品書店は本屋でありながら本を売ることで稼ごうとはしていません。
本を売ることをおそらくは事業の中心に据えていながらも、空間の魅力を高めることに注力しています。
彼らは本を売るのではなく、体験を売っているのです。
日本の本屋さん、特に個人書店も、本を売るという発想から脱却することがこれから生き残るためには必要なのではないでしょうか。
それが便利さなのか、個性的な店主の世界観なのか、はたまた別の何かがあるのか、無責任ながら私にはわかりません。
それでもここで紹介することで何らかのお役に立てれば、とこのように考えた次第です。
私は本屋さんという空間が大好きなので、ぜひ頑張ってほしいと思っております。